東京高等裁判所 昭和53年(ネ)73号 判決 1978年12月19日
控訴人
沖繩振興開発金融公庫
右代表者
知念朝功
右訴訟代理人
宮原功
外二名
被控訴人
沖繩県鰹鮪漁業協同組合
右代表者
真喜屋恵義
右訴訟代理人弁護士
戸田等
同
永田晴夫
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一<証拠>によれば、請求原因一の事実が認められ、同二ないし四の各事実は、当事者間に争いがないところ、控訴人は、被控訴人の配当要求債権は商法八四二条六号に規定する船舶先取特権を生ずる債権ではないと主張するので検討する。
1 船舶先取特権は、船舶について発生した特定の債権に限り(商法八四二条)、これらが船主の債権者の共同の利益のために生じた債権であることから、その債権者に対しその船舶及び属具等から優先的に弁済を受ける権利を付与したものとされ、その解釈運用に当つては、この先取特権には公示方法がなく、その発生前に設定された船舶抵当権にも優先するため、船舶抵当権者の利益を害し、ひいては船主の金融を困難ならしめることのないよう、その範囲を制限する必要のあることはいうまでもないがこれらの債権が実質的に債権者共同の利益のために生じたか否かを考慮すべきである。
そして、漁船は商法上の船舶ではないが、航海の用に供する船舶として商法第四編の規定が準用されるから(船舶法三五条)、第二九共進丸についても商法の船舶先取権の規定が準用されるところであるが、その準用に当つては、漁船における特殊性を勘案すべきものである。
2 <証拠>によれば、我国における遠洋まぐろ漁船にあつては、漁場が遠方洋上であり漁獲期間が一年有余にわたること、漁獲物であるサシミ用マグロは日本国内でしか消費されず海外において水揚げすることができないこと、特殊な漁具及び餌の調達は日本国内でしか調達できないことなどから、本邦を出港し、本邦に帰港するまでの間を一航海とし、その水揚げ代金から漁獲高に応じて比例配当する船員の生産奨励金、補給その他の諸経費等の各債権を清算する方式をとつており、本件第二九共進丸においてもこれと同様であつた事実が認められる。
右の事実によれば、遠洋まぐろ漁船である本件第二九共進丸の場合において、同船が本邦を出港し、漁獲に従事し再び本邦に帰港するまでの間の全航海を継続するために必要な燃料油、機械油、部品等の補給費用、その間の海外基地への入港手続その他に要する諸経費等は、すべて船主の債権者の共同の利益のために生じたもので、商法八四二条六号に定める「航海継続の必要に因りて生じた債権」として船舶先取特権を与えられた債権というべきであり、控訴人の主張するように、海外の最後の寄港地から日本へ帰港するための航海に必要な経費、または、航海中の船舶に航海を継続できないような事態の生じた場合にその時点より船籍港に復帰するまでの航海に必要な経費のみが同条号に定める「航海の継続の必要に因りて生じた債権」にあたると限定すべきものではない。
二<証拠>によると、被控訴人は、原判決添付別表記載の債権合計金七、七六五万八、〇六五円のうち、第二九共進丸の水揚代金から合計金三、一五三万三、六七三円の支払を受けたため、これを発生の順序に従い各債権に順次充当し、残金四、六一二万四、三九九円ありとして配当要求をしたものであることが認められ、<証拠>によれば、前記被控訴人の配当要求債権は、第二九共進丸が昭和四八年一〇月三日から昭和四九年一一月二日までの間の航海を継続するため必要な燃料油、機械油、部品等を補給し、或は入港手続等に要した諸経費を立替支払つた債権であることが認められるから、いずれも商法八四二条六号により先取特権を与えられた債権というべきである。
三次に、船舶先取特権は発生後一年を経過すると消滅すべきところ(商法八四七条一項)、発生後一年を経過する以前にその先取特権を有する債権をもつて競売申立をしたときはこの限りでないと解すべきであり、被控訴人が、本件先取特権を有する債権をもつて、第二九共進丸の競売申立をしたのが昭和五〇年一月一八日であることは当事者間に争いがないから、原判決添付別表1ないし17の各債権は、発生後一年を経過しその先取特権が消滅したものであるが、同18ないし49の各債権についての先取特権は消滅していないのであつて、前述のとおり、被控訴人は、第二九共進丸の水揚代金から支払を受けた金員を右別表記載1ないし17の各債権につきその発生の順序に従い順次弁済に充当したものであつて、右別表1ないし17の各債権は、本件配当要求債権には含まれず、右先取特権の消滅は本件につきなんら消長を及ぼすものではない。
四請求の原因第七項の合意が、控訴人及び被控訴人間に成立したことを認めるに足りる証拠はないから、右事実を認めることはできない。
五以上によれば、被控訴人の配当要求債権は、いずれも商法八四二条六号により先取特権を与えられた債権というべきであるから、控訴人の本件配当表の記載に対する異議は理由がない。
六よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条に従いこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(吉岡進 手代木進 上杉晴一郎)